海外プロモーションに活用したい行動心理学

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の温水洗浄便座が中国人によって爆買いされていることが話題になったのは、2015年の初めのこと。最初は口コミから一部の富裕層の間に広がった現象でしたが、このブームを決定づける事件が同年3月に起きました。かの国の李克強首相が、一連の経緯を全人代(全国人民代表大会)のスピーチで取り上げたのです。これによって注目は一気に高まり、日本製温水洗浄便座の評判が中国全土を席巻しました。これは、図らずも「あの人が言っていることだから本当なんだ」という威光効果の賜物。まさに人の行動心理を突いた出来事だったと言えます。

日本企業の海外展開を支援するサイト「TENKAI」がお届けするこちらのコラム、今回は一般のビジネスだけでなく、海外でのプロモーションやマーケティングにも応用が利く「行動心理学」のテクニックについてご紹介していきます。

世界で応用が利く?知っておきたい10の行動心理

もっぱら広告よりも口コミを信じる傾向があるとされる中国人でも、一国の首相が取り上げただけで一気に温水洗浄便座に注目したという事実は、行動心理学のテクニックに国境がないことを示しています。つまり、自社の商品・サービスを海外展開する際にも同様の人心操縦術が役に立つということです。以下では、すぐにでも使える代表的なテクニックをお教えします。

1 返報性の原理

人から良いことをしてもらったら、何かお返しをしなければ――という思いが働きます。この心理を応用したのが無料サンプルや無料サービスです。無料で利用させてもらったんだから何か買わないといけないという感情から、購買行動に走りやすいとされています。

2 アンカリング効果

映画「男はつらいよ」に登場する寅次郎がバナナの叩き売りで見せる価格交渉術と言えばわかりやすいかもしれません。初めに「500円」と言って価格を上げておき、そこから値段を下げていけば次々に買い求める人が出てきます。このように、最初に提示した数字がその後の判断に大きく影響する心理をアンカリング効果と呼びます。

3 ウィンザー効果

企業の“手前味噌”的な情報だけで構成されている広告・宣伝よりも、第三者の評価のほうが信用に足ると感じる心理現象を利用したテクニックです。口コミもこの一種で、ECサイトなどでよく見かけるレビューなどはその典型例。冒頭の爆買いにもウィンザー効果が一役買っています。

4 バンドワゴン効果

単純に流行りのものや人気を博しているものに弱い、という大衆心理・同調現象に着目したPRテクニックがバンドワゴン効果です。「今売れています」「人気ランキング1位」といったように、広告の謳い文句ではよく使われます。

5単純接触効果

それまでまったく興味がなかったものでも、くり返し目にしていると知らず知らずのうちに好感度が向上し、印象が良くなるという人の心理を突いたアプローチ。広告のメディアミックス戦略や大量投下などはその好例です。

6 スノッブ効果

「人とは違うものを持ちたい」という誰にでもある欲求をくすぐることで、モノやサービスに着目させるテクニックです。あえて商品の希少性やニッチな性格をアピールするのは、スノッブ効果を期待してのプロモーションと言えます。限定商品はこの効果を狙ったアプローチです。

7 コンコルド効果

超音速旅客機「コンコルド」からその名を取った心理現象です。いったん走り出したプロジェクトが簡単には止められないように、シリーズものの商品の購入を続けたり、ポイントがたまるお店やサービスを継続したりしてしまう心理を指しています。

8 ハロー効果

あるひとつの特徴に引きずられて全体の評価が歪められてしまう現象のことです。商品として取り立てて魅力がないにもかかわらず、CMタレントに好意的だったり好意を寄せている人物がそれを使っていたりすると、自分まで欲しくなってしまうのはこの心理のせい。逆に、CMタレントの不祥事などで購入意欲が削がれてしまうのもハロー効果です。

9 ディドロ効果

いつもより高めのラインの服をひとつ買うと、パンツや靴、かばん、帽子などの小物類もこれに合わせてワンランク上のもので揃えたくなる――という心理現象がディドロ効果です。たとえばひとつの高級品を求めやすい割引価格で提供すると、自然と同じラインの小物類が売れやすくなります。

10 カリギュラ効果

人は何かを禁止されると、逆に興味をそそられたり、あえて行動してしまったりすることがあります。これがカリギュラ効果です。動画サイトなどで「閲覧注意」とあるとつい観てしまうのも、この心理的な働きによるものと考えられます。

普遍的な知恵を海外進出に生かしましょう

すでに広告やマーケティングの世界では「常識」となった感もある行動心理学のテクニック。人の性(さが)に訴えるこの普遍的なノウハウを、もっと海外展開・海外貿易の分野で活用しない手はないでしょう。プロモーション戦略のベースになっているAIDMA(アイドマ)の法則やAISAS(アイサス)の法則も、こうした行動心理学をふまえたマーケティングの考え方です。

・AIDMAの法則…Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字を取った、一般的な消費行動プロセスのこと
・AISASの法則…Attention(注意)、Interest(興味)、Search(検索)、Action(行動)、Shere(共有)の頭文字を取った、インターネット活用を前提とした消費行動プロセスのこと

 

今回ご紹介した法則や効果を、アジアにおける新規開拓やロイヤルカスタマーの増加のために活かしてみましょう。消費者心理を理解したアプローチによって、海外展開はより成功に近づくはず。言葉の違いや文化・習慣の違いで乗り越えられなかったコミュニケーションの壁も、もしかしたらこうした知恵が打破してくれるかもしれません。