「見せかけのGDP」に隠れるベトナムの富裕層

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ベトナムといえば、東南アジア諸国の中でも経済成長が目覚ましい国のひとつ。近年では貿易額や経済成長率が右肩上がりで、日本のベトナム進出企業も年々増えています。名目GDPや経済成長率といった指標ではアジアでも10位以下に過ぎないベトナムですが、「中国に次いで力のある発展途上国」と評する専門家もいるほど、その経済的な可能性には世界が注目しています。

数字の上では「突出して魅力のある国」には見えないベトナムに、なぜそれほどのポテンシャルがあるのか――。日本企業の海外進出に関するリアルな情報をお届けする当コラム、今回はベトナムが持つパワーの理由にスポットを当てたいと思います。

ベトナムの成長と地下経済の関係

みなさんは「地下経済」という言葉をご存知でしょうか?これは行政が実体を把握しきれていない経済のことで、無申告の収入(小規模自営業や副業など)や税務申告されていない所得がこれにあたります。現地で行く店でも現金払いをしてレシートが出ないことは多く、受け取ったとしても手書きだったりすることが珍しくありません。これらが正しく税務申告されるとは限らず、地下経済の隆盛は納税損失の証であるとも言われており、世界的に問題視されています。

なぜ地下経済のお話から入ったかというと、東南アジア諸国の中でもとくに勢いがあるとされているベトナムが、実は地下経済によって支えられているという側面があるからです。日本の名目GDPと比べた地下経済の規模は9%程度(推測)とされていますが、それに対してベトナムは16%以上と言われています。

都市で増える隠れ富裕層

国名:ベトナム社会主義共和国(Socialist Republic of Viet Nam)
面積:32.9万km2(日本の約86%)
人口:9250万人(2014年)
首都:ハノイ(人口650万人/2009年)
言語:ベトナム語
主要産業:農林水産業、鉱業、軽工業
名目GDP:1878億ドル(2014年)
経済成長率:5.98%(2014年)
在留邦人数:1万2254名(外務省海外在留邦人数調査統計:2014年)

 

富裕層の割合が1%程度、ミドル層が20%に満たないとされているにもかかわらず、国民の購買力が非常に高いのがベトナムの特徴です。公務員の月収は良くて1000ドル(約12万円)ほどですが、首都ハノイや南部のホーチミンでは「ブランド品を身に付けている現地人」や「何台もの高級車が通り過ぎる光景」に比較的頻繁に出会うことができます。

もちろん、発展途上国だから月収1000ドルでもシャネルやグッチ、ベントレーやアストンマーチンなどが買える、というわけではありません。公務員(主に取り締まりを担当する警察)は便宜を図る代わりに賄賂をもらっており、中には「表向きの可処分所得は月1000ドルでも実際は(100倍の)10万ドル」という人も。国内にはこうした隠れ富裕層が少なくないと言われており、地方よりも大都市のほうが隠れ富裕層の購買力は高い傾向にあります。これが、「見せかけのGDP」のからくりです。

「見せかけのGDP」にだまされるな

東南アジア進出、とくにベトナム進出を考えている経営者の方が注意したいのは、この「見せかけのGDP」にだまされないこと。地下経済が発展する大都市にはお金が集中し、日本人の何十分の一という月収の人たちの大多数は地方に住んでいます。都市部の経済発展が著しい一方で、地方(農村部)の貧困率は下がらない――これがベトナムの現状なのです。

この激しい格差をふまえずにベトナムという国の「平均値」でさまざまな指標を見たり、「GDPが日本の●●分の1以下だから……」などと考えたりするのはかなり危険だと言えます。なぜなら、コストが見込みより大幅に膨れ上がってしまったり、ターゲットがずれてまったく商品が売れなかったり……という事態を招くことにつながってしまうからです。裏経済効果や物価も加味すると、ハノイやホーチミンの経済水準は日本の大都市と同クラスだと思っておいたほうがいいかもしれません。

高付加価値路線のほうがうまくいく?

ハノイやホーチミンの隠れアッパー層は、ブランド志向であり高級志向です。想定よりも高付加価値路線で勝負をしたほうがうまくいくといったケースも実際に多くあります。海外展開に必要なコストを正確に見積もったり効果的なプロモーションを行ったりするためには、現地調査でロワー層、ミドル層、アッパー層を正確に見極めることが大切です。

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