農業分野で進んでいる海外展開、その現状と可能性

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海外展開を模索しているのは、製造業だけではありません。長く日本の食料生産を担ってきた農業もまた、東南アジアや中国などでの現地生産や販売に向けて大きく動き出しています。日本企業の海外展開をサポートするサイト「TENKAI」がお届けするこのコラム、今回は農業や農業機械産業の海外進出事情についてレポートします。

岐路に立たされている日本の農業

もともと国土が狭く、生産力やマーケットの規模に限界がある上、昨今の農業就労人口の減少や安い輸入産品の台頭によって帰路に立たされているのが昨今の日本の農業。その一方で、日本の野菜や果物が「品質」や「おいしさ」といった点で世界各国から高い評価を得ていることもまた事実です。こうした背景から日本の食を世界に輸出しようという動きが活発化していますが、農業分野に関してはこうした試みが必ずしも功を奏しているとは言えません。

輸出だけに頼ったグローバル化には限界が

なぜなら、食料自給率の低い日本では国内需要を優先せざるを得ないという事情があるからです。さらに輸送コストや関税のハンディキャップも価格競争の面では不利になる上、せっかくの品質の高さが鮮度落ちで台無しになりかねないといったリスクが輸出には付きまといます。また、相手国によって輸出できる品目が限られているという点も見過ごせません。たとえば、人口12億人以上を抱える巨大消費地にもかかわらず、中国には米やリンゴ、ナシといったごく限られた生鮮品しか輸出できないのです。

こうした現状を踏まえると、やはり輸出だけに頼った日本農業のグローバル化には限界があると言わざるを得ません。多くの農家や農業関連企業が、安価で広大な土地と見込み消費者を多く抱えているアジア進出を検討するのは当然の流れと言えるでしょう。

農業機械メーカーが注目する中国とタイ

海外で農作物の生産や販売を展開しようという農家がある一方で、トラクターやコンバインといった農業機械メーカー各社もアジアという市場に注目しています。とりわけ中国とタイには「ヤンマー」「クボタ」といった二大企業がすでに進出し、現地の農業をオートメーション化という側面から牽引しています。では、こうしたメーカーが中国やタイを魅力的な市場と捉えている理由とは何なのでしょうか?

1 機械化への潜在的ニーズが大きい

どちらの国も経済的には発展を遂げていながら、農業機械の普及があまり進んでいません。加えて、どちらの国も農業が盛んな割には工業化によって多くの労働者が二次産業や三次産業へと流れており、一次産業は慢性的な人手不足になっています。つまり、機械化へのニーズが非常に高い状況にあるのです。

とりわけ日本の約6倍もの水田面積を誇るとされるタイは、熱帯モンスーン気候の影響から年間を通じて暖かく、稲作栽培に適しているため二期作・三期作が盛んに行われています。それだけ手間がかかることになるため、農作業の機械化・合理化に対する潜在的需要が大きいと言えるでしょう。

2 日本の農業機械が現地の水田に合う

中国もタイも、農家1戸あたりの平均耕作面積は約1ヘクタールで日本とほぼ同様。日本の農業機械のほうが、農家1戸あたり約150ヘクタールの平均耕作面積を誇るアメリカの大型製品よりも取り回しが利き、扱いやすいというメリットがあります。つまり、日本製のモデルのほうが現地の水田の大きさに適しているのです。

ただし、どちらの国にも高価な日本製のトラクターやコンバインなどを購入できる裕福な農家は少ないため、基本機能以外を省略した廉価モデルを現地向けに開発したり、農機具のレンタル企業や農作業の代行業者などを主要顧客として開拓したりするなどして、普及活動を推進しています。

農業技術やノウハウの海外展開も進行中

日本の農家にとっては東南アジアという大きなマーケットに打って出ることで「先細り」の不安を解消できる可能性があり、日本企業(農業機械メーカー)にとっては農業オートメーション化を支援することでビジネスが広がる可能性があります。

また、ASEAN諸国で日本企業の農業活動(生産から販売流通まで)を支援している「アグリループ」のように、日本独自の農業技術やノウハウを海外展開するプロジェクトの事例も増えてきました。ちなみに、アグリループは野菜や日本米などの生産面だけでなく、人材開発や流通面の市場調査までトータルでサービス提供しています。こうした企業やプロジェクトがさらに増えてくれば、「農業のアジア輸出」の可能性もどんどん広がっていくでしょう。