海外進出を成功に導く兵法、ランチェスター戦略とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国内でトップシェアを獲得している日本企業でも、新たに海外の市場へと打って出るなら「ほぼゼロからのスタート」となります。これまで頼ってきた“強者の戦略”は現地で通用しない可能性が高く、同じ経営戦略で海外展開を進めるのはリスキーです。

そこで注目したいのが、「兵法」から発展したランチェスター戦略です(ランチェスター理論やランチェスター経営とも呼ばれます)。日本企業の海外展開・アジア展開を支援するサイト「TENKAI」がお届けするこのコラム、今回は海外進出を図る上で大変役に立つこのランチェスター戦略についてご紹介します。

軍事力の本質を理論化・体系化した戦略

1914年から1918年まで繰り広げられた第一次世界大戦中、「兵力と武器の性能が敵軍に与える損害を決定する」ことを理論化・体系化したのが、エンジニアとしてイギリス軍の戦闘機開発に従事していたフレデリック・ランチェスター。「孫子の兵法」をはじめ軍事の指南書と呼ばれるものはそれまでにも世界中に存在しましたが、軍事力そのものを定量的に説明した理論はこれが最初だと言われています。

第二次世界大戦後は、この考え方が経営戦略・企業戦略に応用できるのではないかという見方から、経済学・経営学の方面で知名度を上げています。

弱者と強者、それぞれのセオリー

このランチェスター理論は、「第一法則(一騎打ちの戦い方)」「第二法則(集団での戦い方)」という2つのケースを想定した以下の法則から成り立っています。

第一法則(一騎打ち):軍の戦闘力=武器性能×兵員数
武器の性能が同じであれば、戦闘力は兵力(兵士の数)に比例する
第一法則から導かれる戦略:弱者の戦略
強者とは正面から戦わず、局地戦や接近戦で一騎打ちを挑むべき

第二法則(集団戦闘):軍の戦闘力=武器性能×兵員数の二乗
互いに無差別発砲することを前提とした集団戦闘では、武器の性能が同じであれば戦力は兵力(兵士の数)の2乗に比例する
第二法則から導かれる戦略:強者の戦略
弱者との接近戦を避け、間接的で遠隔的な集団戦闘を挑むべき

 

このように、圧倒的な戦闘力を持つ強者にまともにぶつかっても勝機はないが、局地戦や接近戦での一騎打ちなら弱者にも勝つチャンスはある――というのがランチェスター戦略の説くところです。それでは、これを海外進出や販売競争にあてはめるとどんな策が考えられるのでしょうか?

 

小さな勝ちの積み重ね──弱者には弱者の経営戦略

一般的に、世に出ている経営戦略は「強者」に向けて作られたものですが、ランチェスター戦略はシェアの小さな企業でもマーケットでサバイバルできることを体系化した方法論です。その主要な考えを大きくまとめると、下記のようになります。

1 ナンバーワン主義を徹底する

最初から大きな市場を狙わず、市場を細分化してその限定的な商圏・テリトリーでナンバーワンを目指す戦略です。勝てるポイントに資源を投じて一騎打ちを仕掛け、所定の目標を達したらさらに勝負する地域・商品などを拡大する――。投資をした一つひとつの地域・商品で、ナンバーワンを獲得していくことを狙います。

2 競争目標と攻撃目標を分けて考える

競争相手として設定するのは、市場シェアで同率かそれより少し上に位置する企業。無理をせずに追い落とせる相手を選ぶのが基本です。また、攻撃目標は自社よりもシェアが低い企業に設定します。市場のシェアを拡大する手っ取り早い方法は、弱い相手からシェアを奪うことだからです。

3 武器の強化で差別化を図る

攻撃目標となる企業に勝つために重要な要素となるのが「武器の性能」です。企業において武器と言えるのは、商品や技術、ソリューションサービスなど。兵力で劣る分、武器の性能を磨いて局地戦で勝てる(差別化を図れる)ようにしておく必要があります。もちろん、「勝ちやすい商品・サービス」や「勝ちやすい地域」を正しく見極めることが大切です。

局地戦を闘いながら力を蓄え、やがて強者になる

海外進出というと大げさに考えてしまいがちですが、当初の主戦場となるのはあくまで勝てると見込める小規模な市場で良いということ。まずは、「ベトナム全体ではなくホーチミン市のあるエリアで一番の販売店になる」「アパレル全般に手を広げるのではなくアンダーウェアだけで勝負する」といった形で、局地戦に勝つことを重視しましょう。

そうして勝利を重ねながら、次第に現地で勢力を広げていくことが海外進出・アジア進出を成功させるカギとなります。そうして一定以上のシェアを獲得し、市場での優位性を揺るぎないものにできたなら、タイミングを見計らって「強者の戦い方」にシフトすることも忘れてはなりません。

関連するページ