クリティカル・マス戦略 vs 旗艦店戦略

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海外で苦戦を強いられる日本の小売業も多いなか、旗艦店戦略という手法で海外の同業他社をリードしているのがファストファッションの巨人、ユニクロです。人口が集中する世界の一等地にフラッグシップとなる大型店を構え、H&MやZARAといったヨーロッパ発の並み居るライバルたちと東南アジアや中国など世界各地でシェアを競い合う、日本のアパレルチェーンの戦い方とは――。

日本企業の海外展開・海外進出に関するリアルな情報をお届けするこのコラム、今回は海外のアパレルチェーンとユニクロの比較から、その出店戦略の違いについてお話しします。

物量にモノを言わせるクリティカル・マス戦略

欧米型チェーンの出店形態はおおむね、「クリティカル・マス戦略」に沿ったスタイルです。このクリティカル・マス(臨界質量)は、商品やサービスの普及率が一気に上昇する分岐点を指すマーケティング用語で、その分岐点に達するまでは赤字を厭わず店舗を立ち上げ、最終的には普及率の急上昇によってその商圏のシェアを奪っていくという手法のこと。いわば、「面」でシェアを取る戦略です。

この戦略を得意とする欧米型チェーンは出店のスピードが早いため、当地での認知度もすぐに高くなり、やがてそのクリティカル・マス効果で集客や売上がアップし始めます。そして予定していた出店が一段落すると、不採算店を閉めて黒字が見込める店をあらためて作っていく――というのが一連のサイクルです。

オセロゲームのようにシェアを取る旗艦店戦略

クリティカル・マス戦略が物量にモノを言わせる“絨毯爆撃”的な発想だとすると、ユニクロが今、海外展開で重視している「旗艦店戦略」はオセロゲームのようなもの。いわば面ではなく「点」でシェアを取るスタイルです。

東京の新宿東口や銀座、大阪の心斎橋、上海の淮海中路、ソウルの明洞、シンガポールのオーチャード、ニューヨークの5番街、ロンドンのオックスフォードストリート、そしてパリのオペラ座前。世界の大都市のなかでも一等地と呼ばれる場所に大規模な店(=旗艦店)を打ち出すことでブランドイメージを高め、同時に業界平均を大きく上回る売上を達成していきます。

そして2号店、3号店と旗艦店に準じる規模のショップを着実に出店しながら、相手のコマを取るようにシェアを拡大するのが特徴。クリティカル・マスに達するまでは赤字が出ても構わないという欧米型出店スタイルとは、ここが大きく違います。では両者、どちらが海外市場で強いのでしょうか?

柔よく剛を制す

クリティカル・マス戦略はそのスタイルから容易に想像がつくように、実践するには潤沢な資金力が必要です。欧米型チェーンがこの戦略で攻められるのは相応の経営資源があるからです。ユニクロに関しては資金力ひとつとってもライバルと比較して遜色ありませんが、ユニクロはあえてクリティカル・マス戦略を採用していません。

その理由は、やはり「柔よく剛を制す」の日本的な考え方が大きいと考えられます。いくら資金に余裕があっても、物量作戦に関してはやはり競合の欧米型チェーンに一日の長があり、相応のリスクは負うことになる。ならば我々ならではの戦い方、創意工夫と知略に長けた日本人らしいやり方、ムダやリスクが極力少ない理に適ったプロセスで勝負しようではないか――そう考える経営者が多いからかもしれません。このように、海外で善戦を続けるユニクロの活躍は、後に続く日本企業に多くの示唆を与えてくれています。

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