Jリーグを足がかりにアジア進出を図る日本企業

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設立から24年目を迎えたJリーグが今、新たに取り組んでいるのが東南アジア進出です。これが日本サッカー界のチャレンジであるのはもちろん、Jリーグの所属クラブをサポートするスポンサー企業にとってもアジア市場に打って出る大きなチャンスと捉えられています。実際、ヤンマーやサッポロビール、ヤマハなど、すでにASEANに軸足を移している企業も少なくありません。

日本企業の海外展開や海外貿易に関するリアルな情報をお届けするこのコラム、今回はJリーグを足がかりに東南アジア進出を模索する日本企業の戦略についてお話をしていきたいと思います。

前段にあるJリーグのアジア戦略

1993年の発足以来、地元密着型のチームづくりで地域の活性化に寄与してきたJリーグですが、少子高齢化が進む日本では常に「先細り」の懸念がありました。そしてそれは日本サッカーの衰退だけでなく、サポートをするスポンサー企業にとってもマイナス要因となりかねません。こうした状況を払拭するために打ち出されたのが、アジア戦略です。

経済成長が鈍化して久しい日本とは異なり、目覚ましい発展を続けている東南アジア。タイの格闘技、インドネシアのバドミントンなど国によって人気スポーツはさまざまですが、どの国でもナンバーワンはサッカーです。しかし、ファンが熱狂しているのは早くから放映権ビジネスに力を入れてきたイングランドのプレミアリーグであり、残念ながら日本のJリーグではありません。こうした状況下で、毎年多額の放映権料がヨーロッパへ流れていることに切歯扼腕(せっしやくわん)してきたJリーグが、本格的なアジア進出を公式に打ち出したのが2012年のことです。

Jリーグはこの年から、タイ・プレミアリーグとの提携をスタート。それを皮切りに、現在はベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシアの計6リーグとパートナーシップを結び、タイなどではJリーグのTV中継もすでに行われています。

サッカーを通じてASEAN進出を図る企業

まさにアジア戦略元年となった2012年から、Jリーグの動きと歩調を合わせるようにスポンサーのアジア進出も本格化していきました。何しろ企業にとっては、東南アジアという一大市場で自社のブランドや商品、サービスを浸透させ、企業イメージや収益の向上を図るまたとないチャンスだったのです。以下では、そんなスポンサー企業の主な取り組みについてご紹介していきます。

ヤンマー(セレッソ大阪)の場合

大阪市に本拠を構えるセレッソ大阪のメインスポンサーが、農作業機械の大手「ヤンマー」。彼らがタイ進出への足がかりとして始めたのが、クラブチームとの協働によるサッカー教室です。これには、経済的に恵まれない子どもたちへのサッカー支援を通じてブランドイメージの浸透と向上を図り、農業国として知られるタイでのビジネスチャンスを広げる狙いがあります。

サッポロビール(コンサドーレ札幌)の場合

2013年、コンサドーレ札幌がベトナムのスター選手であるレ・コン・ビンを獲得したことが話題になりましたが、これによってスポンサーであるサッポロビールのベトナム戦略が大きく進展したと言われています。現地ベトナムの企業と北海道との交流が活発になるなど、地域経済にもその効果が波及しています。

ヤマハ(ジュビロ磐田)の場合

2015年から合宿地をインドネシアに変更したのはジュビロ磐田。インドネシアといえば日本製のオートバイがシェアの約9割を占める一大市場ですが、その6割がホンダで、ジュビロをサポートするヤマハは4割と水をあけられています。合宿地を移した背景には、ブランドの認知拡大によってこうした状況を打開し、二輪市場での存在感を高めたいという思惑が見て取れます。

NSGグループ(アルビレックス新潟)の場合

新潟県内で多くの学校法人を運営しているNSGグループは、東南アジアでのサッカー普及への貢献と日本人若手選手の国際経験増加を目的に、2004年からシンガポールリーグに参戦しているアルビレックス新潟シンガポールの運営に深く関わっています。アジア戦略元年以降の取り組みではありませんが、10年以上前からASEANを見据えた動きをしています。

「コンテンツ」を使って自社を売る

イングランド・プレミアリーグが証明しているように、サッカーのレベル(実力)はその競技を支えるビジネスの強さ(資金力)と密接に結び付いています。したがって、競技力を底上げするには企業の投資が欠かせず、また企業の海外進出を成功に導くにはサッカーを通して人々の注目と人気を集めることが不可欠です。その意味で、Jリーグのアジア戦略とスポンサー企業のアジア投資は、今後のサッカー振興やアジア経済の発展を左右する重要な鍵となるでしょう。

こうしたサッカーなどのスポーツや音楽、アニメといったコンテンツを通して自社のブランディングやプロモーションを推進するやり方は、今後さらに広がりを増していきそうです。一般財団法人デジタルコンテンツ協会によれば、コンテンツ市場の規模は中国で約7兆円、韓国で約3兆円、インドで約1.5兆円、インドネシアで約7000億円とのこと(いずれも2011年)。この数字はさらに伸長傾向にあるため、今回ご紹介した事例はこれから商品・サービスの海外展開・アジア展開を考えている企業にとっても参考になるかもしれません。