東南アジア進出のカギを握る不動産事情
日本企業が海外進出を目指す理由のひとつにコスト削減がありますが、それを実現するにあたって意外な落とし穴になるのが「アジアだから不動産が安いとは必ずしもかぎらない」ということ。ここを見誤ってしまうと、海外進出によって果たすべき事業目標の達成が大きく遠のいてしまいます。
海外進出に関するリアルな情報をお届けする当コラム、今回は東南アジアの不動産事情と、当地の不動産選びで気をつけたいポイントについてご紹介します。東南アジア進出を失敗させないカギは、オフィスの選び方にあると言えるかもしれません。
不動産価格が高騰する理由
タイのバンコクやベトナムのホーチミン、インドネシアのジャカルタといった大都市では海外企業の誘致やインフラなどの環境整備が急ピッチで進められており、それにともなって不動産価格も高騰しています。外資系企業や国内と外資の合弁会社が次々とビルを建設していますが、需要の増加に追いついていないところもあるようです。ベトナムの首都ハノイでは、半年足らずで価格が2倍になったマンションもあったと言います。
「需要>供給」の構図で不動産の値段が上がるのは当然だと思われるかもしれませんが、東南アジア諸国の不動産価格の高騰には別の要因も絡んでいます。それが、海外の投資家による不動産投資の過熱です。アメリカのリーマンショックをはじめとする世界的金融不安が証券投資に水を差した形となり、代わりに経済成長著しい東南アジア諸国の不動産投資がより注目されるようになったと考えられています。
いずれにしてもASEANを代表する大都市では不動産価格が高くなりがちなので、そうした状況があることは留意しておきましょう。
不動産選びの失敗を避けるには
海外に工場を建設する場合は地方や郊外が候補になると思いますが、海外進出の拠点となるオフィスや営業所は利便性の高い都心部に置きたいという方が多くいらっしゃいます。今後のビジネスのしやすさを考えれば納得の選択肢ですが、だからといって高すぎる賃料を払ってまでオフィスを設けるのは考えものです。
冒頭で触れたように「アジアだから不動産が安い→いいオフィスを借りられる」と考えてしまうと、あとあと負担の大きな出費を強いられることになります。現地の不動産業者によっては相手が日本人ということで高級物件・大型物件を紹介するところもあるようですし、物件内覧時は経営者の方の気分が高揚しているためコスト面の判断が甘くなり、身の丈に合わない物件を契約してしまいがちなので注意が必要です。
ある日本企業のオフィス選び
数年前にベトナム進出を果たしたある日本企業の代表は、オフィスを決めるにあたって自ら物件探しを行いました。そして「ここにしよう!」と決めた物件は、街の中心からほど近いアクセス抜群の場所にある、真新しい高層ビルの上層階。そのオフィスからの眺めはとても素晴らしかったようですが、やはり出費も高くついたようです。
従業員の数に見合っていない規模の大きなワンフロアは、「これから頑張るぞ!」という組織(子会社)の一体感を醸成するうえでも弱点になったと言います。そして結局、コスト削減のために小規模なオフィスへと引越しをすることになりました。オフィス移転には手間も時間もお金もかかるもの。その代表の方は、当時の判断を後悔していらっしゃいました。
とはいえ、一方でアジア諸国では「見栄の文化」もあります。日本なら「簡素」と捉えられるようなオフィスや事務所でも、アジアに行けば「貧乏」というレッテルを貼られてしまうので、そのあたりのバランスには気を付けたいところです。
揺らぐ前に決めておくべきもの
日本とはいろいろな部分が違う海外では、経験豊富な経営者であってもオフィス選びの判断を誤ることがあります。もちろん複数の物件を見て回る中で「あれもいい」「これもいい」と揺らぐことはあると思いますが、そうした状況でも絶対に譲らない条件を決めておくと良いでしょう。それは家賃かもしれませんし、設備や環境かもしれませんが、絶対に譲らない条件を自らに課すことで後悔する(失敗する)可能性は間違いなく減るはずです。
海外展開の目的と事業目標をあらためて見据え、くれぐれも慎重に不動産を選ぶようにしてください。